常連さんから一見客まで、みんなの願いを叶える秘策
顧客ニーズが生んだ、カフェとバーとが融合する新しいカタチ
- Café&Barたこやき大王
- 福岡県久留米市田主丸町田主丸653-1
- ■代表者: 梶原 大輔
- ■創業: 平成21年7月16日
- ■計画承認日: 平成29年3月31日
- ■TEL: 0943-72-0020
ニーズに応えてステップアップ!「たこやき大王」の華麗なる転身
「お酒が飲めるようになったら行きたい」と、田主丸の若者が憧れる「たこやきBAR たこやき大王」。
たこやきBARとはいうものの、フード・ドリンクともに種類は豊富。アボカド明太やローストビーフ、生ハムのシーザーサラダ、サーロインステーキ、フィッシュ&チップス、唐揚げ、焼きそば、お好み焼き…と、美味しそうなメニューがズラリと並ぶ。ドリンクに関しても、ビールやワイン、焼酎はもちろん、ウイスキーやカクテルまで充実の品揃えとなっている。
広い店内は、白を基調とした明るいカフェスペースと、照明を落としたムーディなバーの二段構え。お洒落な雰囲気に惹かれた若者を中心に、カップルや友達、家族連れなど、いろんな客が訪れる。
今ではすっかりお洒落な店に成長したが、じつは「たこやき大王」のスタートは、テイクアウト専門の狭い店から始まった。
当初はテイクアウト専門だったため客を店に入れることは想定しておらず、「トイレもなかったんですよ」と、オーナーの梶原さん。トイレもない狭い店から、地域の若者が憧れるお洒落なカフェバーへ…。いくつものステップを踏みながら順調に成長してきた「たこやき大王」だが、その変遷の陰には常に客の声があった。
昨今、客のニーズを経営に活かす店は多い。しかしここほど、客の意見を見事に活かしきれている店はない。不思議なほど梶原さんには、客の本音が寄せられる。これこそが「たこやき大王」の成功の秘訣であり、梶原さんの人徳のなせる業なのだ。
終始、照れたような笑顔を浮かべ、小さな声で穏やかに話す。お酒の勢いで客がどんなワガママを言っても、無茶振りをしても、梶原さんは困ったような笑顔を浮かべ、決して怒らない。そんな梶原さんの人柄が、客の要望をスルスルと引き出していく。要望というよりも、甘えやワガママに近いのかもしれない。
「お客様アンケート」では決して聞けない客の本音が、この店を進化させ続けている。
たこやきを軸に、人との出会いで可能性を開花
「たこやき大王」を変え続ける、客の一言
「狭くてもいいから中で食べたい」という客の一言をきっかけに、店内でのイートインをスタート。さらに「お酒を置いてよ」という要望で、アルコール類を提供するようになった。
これが功を奏したのか、たこやきを食べながらお酒が飲めると人気を集め、じわじわ客が増えていく。客同士の交流が盛んになったのも、ほろ酔い加減の女性客が言った「合コンしてよ」の一言から。あるとき、「交流はあるのにカップルができない」という話になった。「この店で出会っても運命は感じんもんね。もっとお洒落じゃないと」という、これまた女性客の言葉が、「たこやき大王」にさらなる変化を遂げさせる。そう、この一言が店の移転を梶原さんに決意させたのだ。
その後も「アヒージョ作って」「タコライスが食べたい」など、客の声に応える形でメニューも増えた。梶原さんにカクテル作りを伝授したのも、元バーテンダーの客というから驚きだ。「お酒を出すならカクテルもおこうよ」と言われ、半年間ほど師事した後、カクテルづくりをマスターした。
店づくりやメニューづくりに至るまで、すべてに客の声が反映された店。客にとって、居心地が悪いわけがない。
こうして客の声に真摯に向き合った結果、梶原さんは店や自分の可能性を次々と開花させることに成功した。
奇をてらわない、王道のたこやき
もともとがテイクアウトの専門店だったため、たこやきは冷めても美味しい独自の配合。インパクトを重視せず、飽きのこない、何個でも食べたくなるような味を目指す。ソースや塩ダレしかなかった頃より、梶原さんは「塩」であっさり食べる方法を考案。シンプルゆえにたこやき本来の味がすると言う。
今ではタレや塩に加え、コーンバター醤油やコーンクリームシチューといった変わり種もあるが、「注文を受けて焼く」という創業以来の姿勢は守り続けている。
経営革新計画を策定してみようと思ったきっかけは?
「外から店内の様子が見えず入りにくい」というお客さんの声があったので、どうにかしなければと思っていました。それで改装を具体的に考え出した時に、経営指導員さんから「計画があるなら書面に落とした方が良いですよ」とアドバイスされたんです。頭の中で考えているだけでは、きちんと整理できないからと。それで経営革新を取ることにしました。
経営革新計画の内容
Q. 新サービスの概要と、その新規性を教えてください。
経営革新のテーマは「非日常的なダイニングカフェバーへの転換による新規顧客の獲得」です。平成23年に現在の場所に移転して、以前よりはだいぶ広くなりました。しかし「外から中の様子が見えず入りにくい」と言う声も出てきて…。雰囲気を重視しすぎて、店がちょっと暗かったっていうのもあったんです。
せっかく通りに面しているのに、新規のお客さんを十分に取り込めていないのは問題です。ただ店の雰囲気に関しては、以前にお客さんに言われた「雰囲気が良くないと運命を感じない」という言葉があったので(笑)、単純に明るくするのには抵抗があったんです。そこで悩んでいたら、スタッフに“一つの店で二面性のある内装”というアイデアをもらいました。
具体的には、入り口近くを明るいヨーロピアンスタイルのナチュラルカフェにして、店内奥を雰囲気重視のアジアンバーにしました。店先は入りやすいように明るくし、店の奥を落ち着いたムーディな雰囲気にしようと。今回の改装でさらに店を広くしたので、カフェとバーの間に段差を設けて、空間の区切りとしました。段差や壁でそれぞれの雰囲気を演出し、異なる2つのテイストがうまく溶け込んでいると思います。
カフェにはソファ席もあるし、バーにはカウンターや小上がりもあるため、若い人から大人まで、いろんな人に使ってもらえる店になりました。先日は貸切で子ども会の集まりがありましたし。子どもは「たこやき食べたい」って言ってはしゃいで、お母さんたちは座ってゆっくり話ができて…。幅広い世代の人に、長く来てもらえる店になりたいですね。
Q. 将来の展望は?
展望というか、今はちょっと迷子な感じです。やりたいことの夢と現実が入り乱れてまして。でも、お客さんの要望に沿っていくやり方は変わらないと思います。やっぱり、お客さんあっての商売だから。言われるがままに流されるというわけではないけど、自分も納得できる意見が多いし、そういうものはこれからも取り入れていこうと思っています。
経営革新計画を策定してみていかがでしたか?
Q. 策定期間中、どんな支援を受けましたか?
専門家派遣で、中小企業診断士の先生からアドバイスを受けました。それまでは基本的な数字についてまったく分かっていませんでした。自分がプレーヤーで、がむしゃらに頑張っていたところがあって。でもマネージャーとして視るように、自分の意識が変わりました。今までは「やってみらんと分からん」と思っていたけど、「やってみる前にも分かることはあるんだな」と。席数によって、ある程度の利益を予想したり、原価率や人件費のことを計算したり。
経営革新というきっかけがなかったら、ずっと分かっていないままですから、商工会や町の人たちのおかげです。
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豊富なカフェメニュー&ノンアルコールカクテル
フードやアルコールだけでなく、フラッペやパフェ、パンケーキやタピオカドリンクなど、カフェメニューも充実しています。カフェスペースを設けたこともあり、最近のオススメは手づくりケーキ。ガトーショコラやキャラメルアップルケーキなど、レシピも僕が考えたオリジナルで作っていて美味しいですよ。
また、ノンアルコールカクテルもいろんな種類があります。今はディズニープリンセスにちなんだカクテルを、スタッフがそれぞれに考案中です。お酒が飲める人も飲めない人も、いろんな楽しみ方があるので、気軽に遊びにきてください。
「たこやき大王」を通して、梶原さんが願うこと
2016年の熊本地震では、スタッフと一緒に炊き出しに行きました。はじめは店で開店準備をしていたんですが、自粛の雰囲気があったので田主丸自体がシーンとして人がいないんですよね。
それで準備をしながらスタッフが「こういう時は被災地に行った方が良いんじゃない?」って冗談で言ったんですが、僕は「本当に行こうか」って。翌日、準備をして店を閉めて熊本に行きました。震災後3日目でしたね。
飛び込みで行ったので地元の人に声をかけて、「南阿蘇の長陽小学校に行くと良いよ」と教えてもらいました。人を集めるために、町内放送までしてもらったんですよ。
乙姫公民館にも行きましたが、すごく喜んでもらいました。カップヌードルとかインスタントばっかりだったから、「焼きたてホカホカのたこやきが美味しい」って。
「次来るのを楽しみに待ってる」って言ってくれて、乙姫公民館には全部で3回行きました。長陽小学校の方は、2回目からは立ち入り禁止区域になってしまったので。。
熊本での炊き出しは、良い経験になりました。ボランティアもそうですけど、何か人の役に立てればと思います。前は「運命を感じない店」と言われたけど(笑)、その後お店を改装して、何人かはここで出会って結婚した人もいるんですよ。
「あの店に行きだして良かった」と言われるようになりたい。人の人生に関われたら良いなと思っています。