「筑後川の大河童」が創業した、老舗川魚専門店
福岡市春吉店で、プラチナ会員制による付加価値を追求
- 鯉の巣本店
- 福岡県久留米市田主丸町田主丸641-1
- ■代表者: 上村 政秀
- ■創業: 昭和30年1月1日
- ■計画承認日: 平成30年5月31日
- ■TEL: 0943-72-2451
川と川魚に精通した、本物の川魚料理専門店
「田主丸にこの店あり」と知られる、鯉の巣本店。鯉や鰻、鮎などを扱う老舗の川魚専門店として、地元はもとより県内外から客が訪れる。
こちらの初代は、「筑後川の大河童」と呼ばれた上村政雄。“鯉とりまぁしゃん”の愛称で知られ、河童のまぁしゃん・生き河童とまで呼ばれた鯉とり名人だ。
その身一つで筑後川に潜り、素手で鯉を捕まえる。その技量はずば抜けており、川の中を自由自在に泳ぐ姿には多くの人が驚いた。「まぁしゃんが潜ると鯉がいなくなる」と言われ、最高で1日250匹ほど獲ったこともある。
現在、鯉の巣本店を継ぐ3代目は、祖父である初代の言葉を覚えている。「俺は天才ではない。人の何倍も潜ってきたからわかるんだ」。その言葉の通り、普通の人は諦めるような場所でも、獲れるまで何度も潜っていたという。川底の地形、水流の速さや向き、さらには鯉の生態にまで精通した初代は、まさに「筑後川の大河童」の異名にふさわしい人物だった。
そんな初代に興味を持ったのが、芥川賞作家の火野葦平。火野は初代をモデルに「百年の鯉」を著し、鯉とり名人まぁしゃんの名を全国区に押し上げた。まぁしゃんの漁場には見物客が集まり、映画の途中に上映されるCMにも映ったほど。
このまぁしゃん人気を背景に開業したのが、「鯉の巣本店」。川魚に精通したまぁしゃんの料理は、「川魚は臭い」というイメージを払拭し、一躍人気店へと躍り出た。
こうして創業60年以上、現在では3代目がその知識やこだわり、調理法を引き継いでいる。 客の7〜8割が地元外からやってくるなど、いまだに店の知名度は高い。遠方からの常連客も多く、美味しい川魚を食べさせる希少な存在となっている。
また、伝統を引き継ぐ本店に対し、自分のやりたいことを追求する店として、3代目は 福岡市の春吉に「鯉とりまぁしゃん春吉店」をオープン。飲食店の激戦区でもある春吉で、川魚の本当の味を知ってもらうべく奮闘している。
自ら川に潜り、鯉をとる…漁師だからこそ知る、美味しい鯉の食べ方
酢味噌は邪道!鯉そのものの味を知ってほしい
通常、鯉のあらいは酢味噌でいただく。しかし、酢味噌は味が濃いため鯉の臭みを消すとともに、鯉本来の味まで消してしまう。そのためこちらでは、創業当時から鯉のあらいは酢醤油で提供する。これは、素材に対する自信の表れ。こちらの鯉は、臭くないのだ。
鯉の臭みは生息場所の環境による。初代は実際に筑後川に潜り、いろいろな場所で獲った鯉を食べ比べた。その結果、同じ筑後川でも田主丸より上流の鯉は臭くないことが判明した。
ゆえに鯉の巣本店で使うのは、田主丸より上流で獲れる鯉のみ。仕入れ一つとっても、漁師ならではの知識と経験が生かされている。
創業当時から続く…鯉のあらいの独自のしめ方
鯉の巣本店には、鯉のあらいにも創業当時から続く独自の締め方がある。通常は氷水で急速に冷やすが、こちらではぬるま湯につけてから流水にさらす。その方が身がよく締まり、弾力のある美味しい仕上がりになるのだ。
ぬるま湯につける時間や温度、流水にさらす時間などは感覚に依るところが大きく、簡単に真似できる技ではない。独自技術による「ここでしか食べられない味」が、県内外の客を呼ぶ一因だ。
経営革新計画を策定してみようと思ったきっかけは?
自分のやりたいことを実現するべく、4年前に春吉店をオープンしました。本店は昼の利用が多く、予算はだいたい1,000円〜1,500円くらいです。それに比べて、春吉店は夜の営業のみ。価格を下げずに、天然物を多く取り入れた料理を用意しています。
入れ替わりの激しい春吉にあって、今年で5周年を迎えることができました。お客さまにも好評をいただいていますが、川魚はマイナーなジャンルです。少ない需要の中でも安定的な売り上げを確保できるよう、春吉店に会員制を取り入れようと考えました。この会員制を導入するにあたり、経営計画を立てて進めようと思ったのがきっかけです。
経営革新計画の内容
Q.新サービスの概要と、その新規性を教えてください。
「春吉店のプラチナ会員制の仕組み化による高付加価値サービスの提供」です。
春吉店では、料理・雰囲気ともに高級感を大切にしています。そこで、常連のお客さまにさらなるステータスを感じてもらえるよう、一般会員・ゴールド会員・プラチナ会員の3段階に分けた会員制を導入することにしました。
一般会員は3回の来店でゴールド会員に昇格し、ゴールド会員になると誕生日の優待やカウンター席利用などの特典があります。さらにプラチナ会員になると、誕生日の無料招待やカウンター席の優先利用権など、特典がランクアップします。
カウンター席は店の一番奥にあるため、一般のお客さまは入ってきません。プライベート感のある特別な空間で、川魚料理をゆっくり楽しんでいただくことができます。また、カウンターに座ったお客様には、料理の説明や川魚のことなど、いろいろなお話をさせていただきます。
川魚を愛し、うちの店を愛してくれるお客さまにプラチナ会員になっていただき、きちんとおもてなしをしていきたい。会員制にすることで、カウンターを常連のお客さまのために空けておきたいと考えています。この取り組みが“常連客のリピート率向上”につながれば嬉しいですね。
Q.将来の展望は?
うちには60年以上の歴史があり、今は創業100周年を目標にしています。しかし最近は、川魚を食べる習慣が失われつつあります。鯉とりまぁしゃんの孫として、鯉の巣本店の3代目として、川魚の食文化を広めるのは使命です。幸い息子が4代目を継ぐと言っていますので、4代目に良い形でバトンを渡したいですね。
春吉店に来てくださる50代以上のお客さまは本店を知っている方が多いし、接待で春吉店をご利用いただいたお客さまが週末に家族で本店を訪れてくださることもあります。本店と春吉店で相乗効果が出ていると感じますね。
川魚はマイナーな分、クチコミで広げていただくしかありません。お客さまを大事にすることで、お客さまにお客さまを連れて来ていただけるようにするしかない。
春吉周辺の飲食店は入れ替わりが激しく、美味しいだけでは生き残っていけません。そういった点も含めて、ここでの私の経験が4代目の財産になると思っています。
経営革新計画を策定してみていかがでしたか?
Q.策定期間中、どんな支援を受けましたか?
商工会さんには経営者としての勉強をさせてもらっていると思います。田舎商売をしてきたので、今までは経営戦略や事業計画なんて考えたこともなかった。
景気が良かった昔は、美味しいものさえ出せば良かったわけですから。でも今は美味しいのは当たり前、美味しいだけではやっていけない時代です。そんな中で、経営者としてお店を残していく方向性を考えないといけない。
20年ぐらい前に、商工会青年部に入りました。商工会でいろんな情報に接するうちに、商売が成り立つためには経営が大事だと気づかされましたね。
とくに今回の経営革新は、自分の店の強みやターゲット層などを考え直す良いきっかけになりました。
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味噌に柚子胡椒まですべて手造り…独自の味が自信につながる
鯉こくに使う味噌は、すべて手造りの麦味噌を使っています。年に2回の味噌の仕込みは、うちのイベントのようなものですね。地元の麦麹、北海道産の大粒大豆、羅臼昆布を使うんですが、前の晩から大豆を水につけ込んで、朝になると創業以来の大釜で炊くんですよ。自分の店で使うものなので、材料は良いものばかりです。
また、人気の柚子胡椒も自家製です。地元生産者の青柚子と青唐辛子、それに塩のみ。シンプルですが、粗挽きにした青柚子をたっぷりと使っています。塩辛くなく、青柚子の香りが際立っていると評判です。
調味料までを手造りにすることで、他では真似できない味に仕上がります。うち独自の味を提供できることが、絶対的な自信になっていると思います。
鯉や鰻だけじゃない!鮎に寒鮒、ハヤにマス…川魚全般を提供
寒くなると、うちでは寒鮒を出すようになります。寒鮒は脂がのって旨いんですが、最近は扱っている店が少なくなってきました。ほかにもさまざまな川魚を手がけているので、川魚が好きなお客さまには喜んでいただいています。
また、鮎は若鮎・子持ち鮎・落ち鮎とシーズン中に変わっていきます。身が柔らかく味がアッサリしている若鮎は丸ごと食べられるよう調理しますし、風味が増し、味がしっかりしてくる落ち鮎は刺身や天ぷらが美味しい。鰻も同じで、それぞれの時季に適した美味しい食べ方があります。土用丑の日があるからと言って、夏が旬というわけではないんです。川魚の専門店として、そんな奥深い川魚の世界をお客さまに伝えていきたいですね。