コロナ禍をきっかけにECサイトをオープン、ユーザーの声を商品開発に活かす
- やわらか製作所 株式会社
- (本社)福岡県久留米市田主丸町船越1170-5
- ■代表者: 内野 克彦
- ■創業: 平成28年7月15日
- ■計画承認日: 令和3年2月16日
- ■TEL: 0973-29-8787
撤退事業を買い取り、独立開業
「やわらかさは、心地よさ」と定義し、ウレタン加工業でお客様の心地よさを追求する「やわらか製作所」。もともとは大分県日田市に拠点を置く車両用部品製造会社「中山化成有限会社」の一事業だったが、同社がウレタン事業を撤退することになり、責任者を務めていた内野克彦さんが事業を引き継ぐことになった。
「中山化成の創業当初から30年以上もお付き合いのあるお客様がいらっしゃったので、生産をストップするわけにはいきませんでした」と内野さん。独立にはもちろん、恐れもあったが、営業権も機械もすべて買い取って、2017年4月、内野さんと社員3人で事業をスタート。工場での加工に携わるのは3人で、内野さんは自ら営業も担当している。
「やわらか製作所」で扱うウレタン製品は、大きく5つある。一つは段ボール内の緩衝材や果実の梱包などに使われる一般化成。そして永久磁石付きマットレスや枕などの医療機器関連。メーカー製品の保護や出荷用の棚に使う保護材をつくるメーカー関連。また、魚や肉のトレーに敷く薄いウレタンをつくる食品関連。これらは、中山化成時代からのご縁が続いている分野だ。そこに新しく、体育関連が追加されている。
ワンストップ・小ロットオーダーが強み
同社の事業は、ウレタンメーカーからの発注に応じて生産する、B to Bビジネスがメインだ。ただ、体育関連はメーカーからの受注を待つのではなく、自ら開拓した分野だった。そもそも、体育関連はメーカー側が厭う案件だという。たとえば野球場なら、壁のコンクリートにウレタンを貼りゴムシートで覆うのだが、案件ごとに規格やサイズ、発注枚数が全く違うため、面倒で断るメーカーも多い。内野さんは「対応できるので、受けてください」とメーカーに頼み、野球場、体育館といったスポーツ施設の案件を徐々に増やしてきた。
この体育関連にも活かされている強みは、ワンストップでの生産だ。受注するとウレタンを加工するだけでなく、カバーの縫製、カバー掛け、製品の梱包まで一元で請け負うことができる。また、ウレタン1枚からでもオーダー可能で、1回の取引額が大きくないと発注できないメーカーに比べ、「やわらか製作所」は融通がきく。「強みをアピールしたいものの、まだ認知度が高くないのが課題です」と内野さんは語る。
ホームページ経由で仕事が舞い込む
「まだまだ」とは言うものの、「やわらか製作所」の認知度向上に役立っているのが、開業と同時につくったホームページだ。ウレタン加工業は昔からあるが、ホームページを整えている企業は少ない。特に九州だと、ウレタン加工業で検索をかけると、同社しかヒットしない状況なのだそうだ。「お金をかけたわけではありませんが、それでも直接依頼が来ることが増えてきました」と内野さん。
実際に、ホームページ経由で某ホームセンターで販売される隙間テープを手がけている。これも、もともとつくっていたメーカーが生産を中止したため、ホームセンターに商品を卸している商社がWebで探し、「やわらか製作所」に行き着いたことが始まりだった。自ら発信していく重要性を実感した出来事だ。
だからこそ、補助金を得てB to CのECサイトオープンにこぎ着けた。コロナ禍をきっかけに事業は伸び悩んだが、エンドユーザーに直接販売できる手段があれば、新たな販路が開けると期待している。
経営革新計画書をつくる過程で思い出深い出来事は?
中小企業診断士に相談できたことです
経営革新計画書をつくる時に中小企業診断士に相談できる機会があり、田主丸町商工会から、いろいろとアドバイスしてくださる中小企業診断士に引き合わせていただきました。そこで、補助金でECサイトもつくることだし、コロナ禍の巣ごもり需要を見越して開発した、家庭向け水耕栽培用のウレタンについて、聞いてみたのです。すると、私が想定する販売ロットが、どうも個人向けにしては多すぎたようなのです。私どもの事業はB to Bのみで一般的な顧客向けの商品開発は経験がなく、そのまま発売していたら売れないところでした。これまで社外の方に事業について相談する機会があまりなかったので、とても良い経験になりました。
経営革新計画書をつくってみて良かったことは?
事業や経営計画について整理ができ、明確化できる
経営革新計画書をつくる時、当社の事業について田主丸町商工会の担当者に話したところ、思いもよらない、強みや特長を引き出していただいて、驚きました。自分なりにアピールしていると思っていても、なかなかうまく伝えられないものです。それを、このように表現してくれるんだ、と。会社の事業や経営計画について整理ができ、明確化できました。また、資金繰り表をつくったほうがいいとアドバイスもいただきました。今後、より強力な事業体となっていくためにも取り組むべき課題だと捉えています。
申請後、無事に補助金が下りて、ECサイトをつくったところ、注文にいたらなくてもサイトを訪問し、商品を見ていただいている方は多いと感じています。今のところ、個人向け水耕栽培セットとボルダリング用クッションしか商品がないため、これから新たな商品開発を進める予定です。
その他、計画をきっかけに変化したことは?
エンドユーザーとのふれあいがありました
ECサイトを制作した会社から、「商品を納品したお客様のところを回って、ブログにアップしていったほうがいい」と助言があり、納品した施設などに足を運びました。施設の壁に貼るクッション材のオーダーがあったところではサイズが合っていないことが発覚しましたし、店舗内にあるキッズルームのクッションを実際に見に行ったら、見栄えについて考えるきっかけになりました。また、ボルダリング用マットの固さについても、ユーザーから直接声を聞くことができました。
普段は顔の見えないお客様に喜んでいただくために、どう製作を進めるか。いつもはメーカーからの発注に対応するだけでしたが、自分の目で見てみることは、商品開発や改良、製作の進行方法に役立っています。今後は直接取引を増やし、双方納得のいくものづくりを続けたいと考えています。
これからは直接の取引先を拡大していく
ECサイトの立ち上げをきっかけに、社長自らがエンドユーザーにも会いに行くことで、直接依頼をいただく機会も少しずつ増えている。また、個人のお客様向け用のセットを新しくつくり、ECサイトにのせたところ、水耕栽培用ウレタンについて農家からも問い合わせがくるようになった。なんでも、これまでは愛知県名古屋市から仕入れていたが、輸送費がかさむので九州の事業者を探しており、「やわらか製作所」を見つけたのだという。決まれば、定期的な受注が可能になる。ただ難しいのは、“定期的”という部分だ。毎月のことだから、お客様としては少しでも安価なほうがいい。「間に商社が入ると、当社の受注価格が下がるため、やはり直接取引を増やすのが重要です」。
縫製まで自社で行う “本当のワンストップ”へ
サイトの立ち上げを契機に直販の光明が見えたところで、事業も上向いてきた。コロナ禍で発注控えしていた分が、一気に依頼されるようになったのだ。通常のオーダーに加え、2トントラックで3回往復する必要のある、550枚ものフェリー用マットレスを2隻分受注した。「今後はECサイトで直販にも力を入れていく、と社員に伝えた直後でした」と内野社長は微笑む。
今後、事業のポイントになると考えている縫製については、これまでのように外注するのではなく内部製作を目指している。ウレタン加工業者やメーカーは、ウレタン加工までは国内でまかなえても、縫製は中国から仕入れていることが多いという。ワンストップの強みをさらに強化するには、縫製までも自社で担当することが必要だ。「これからも小ロット・ワンストップ、メイド・イン・ジャパンの商品作りを強みに、小ロットでも利益が生まれる仕事を開拓していきたい」と内野さんは目標を語った。