情熱と行動力で、業界に新風を吹き込む プロも驚く、“割れない丸太の輪切り”で起業
- きりかぶ工房
- ■代表者: 豊福 沙織
- ■創業: 平成29年9月1日
- ■TEL: 090-9405-7692
“丸太の輪切り”にかける想い
丸太の輪切りにはヒビが入る。そんな定説を覆したのが、こちら「きりかぶ工房」の豊福さん。海外の山地で日用品として使われていた丸太の輪切りに魅了され、帰国後、「類似品を購入できれば」と色々なところに問い合わせたが、当時は販売店は見つからなかった。それならば自分で作ろうと思い立ったが、それも難しい事がわかった。なぜなら、丸太を輪切りにしたものは、乾燥過程でヒビ割れが入ってしまうからであり、日本中に問い合わせたものの、木材を扱う関係者からは「ヒビの入らない丸太の輪切りはできない」と言われた。自分自身でもなぜ割れるのか、どうしたら割れないのかを研究していくうちにとても深い研究になってしまい事業化を模索した。
その後、木材乾燥の分野で一目置かれている九州大学の教授の協力を得て、調査・研究を開始し、今までの常識にない特殊な乾燥技術を確立した。そして平成29年、ようやく丸太の輪切りの製造と販売をスタート。
現在では、コースターやプレート、時計など、丸太の輪切りを生かした商品作りを行っている。「本物の木を感じてほしい」と、「きりかぶ工房」では表皮付きの無垢の丸太も使用。手のひらで触って木を感じられる“丸太の輪切り”にこだわっている。ゆえにこちらの商品は、今まさに森から切り出してきたような、丸太そのものの風合いを残す。
木材の常識を覆す、新商品を開発
特殊技術で、プロも認める仕上がりに
「ヒビ割れしない丸太の輪切りを作りたい」と言う豊福さんの話に唯一、前向きな返事をくれた九州大学の教授と共に、木の種類や乾燥の方法など、あらゆる条件下での研究実験を行った。こだわったのは、薬剤を使わないことと、割れ部分への詰め物で対処しないこと。あくまで温度と湿度の調節のみで、ヒビ割れを防ぐことを貫いた。
丸太の輪切りは部分により含水率が異なる上に、接線方向や半径方向によって収縮率も異なってくる。そのため時間が経つとヒビが入ると言われてきたが、地道な研究により、割れない乾燥法を編み出した。薬剤を使わないため無垢材の温かみを損なうことなく、詰め物の必要がないため衛生面でも優秀。
料理を盛り付けるプレートなどにも、安心して利用できる。木材のプロである某森林組合から杉の輪切りを依頼されたほど、新技術への評価は高い。
木の種類からサイズまで、豊富な商品ラインナップ
使用する木材は九州に多い杉や檜がメインとなるが、桜や松、林檎や栗など、針葉樹や広葉樹、果樹にも対応。さらに直径5mmのピアスから、コースター、プレート、カッティングボード、時計、看板まで幅広く手がけ、最大では60cmのウェディングケーキ台を作っている。
小枝の輪切りをはじめ、大小さまざまな大きさの輪切り素材を利用したワークショップや、自社加工を施した雑貨作りを行っており、オリジナルブランド「tree rings」として販売もしている。
創業計画策定支援を受けようと思われたきっかけは?
最初は商工会さんではないところで起業相談を転々としていたのですが、専門家の先生方のアドバイスが真逆だったりして混乱してしまったんです。ケースバイケースで先生方のアドバイスは正しかったのでしょうが、自分のやりたいことや目指すことに、どう取り入れて行けば良いのか分からなくて…。気を遣いすぎて、先生に自分の意見を言えなかったりもしました。そんなときに「田主丸町商工会さんにヤル気のある経営指導員さんがいるよ」と、教えてもらいました。
商工会さんでは持続的に支援してもらえるということだったので、創業支援を依頼することにしました。
創業計画書を策定してみていかがでしたか?
個別支援」ということで、信頼できる経営指導員さんに専属で付いてもらえたのが良かったですね。商工会さんでも、得意分野に合わせて数人の専門家の先生にアドバイスをいただきましたが、すべて経営指導員さんが同席してくれました。経営指導員さんが、私が今までやってきたことなど一連の流れを専門家の先生に上手に伝えてくださって、とても助かりました。
こちらの状況を把握したうえでトータルで助言してもらえるので、専門家の先生のお話をスムーズに取り入れることができました。
商工会を活用した感想
実は、商品の特質上、年輪があったりと、丸太の表情はそれぞれ違うので、商品を一つ一つ写真入りで紹介するために、ホームページ制作を考えていました。また、使われている木がどこで育ったのか、どうして伐採されたのかなど、木材にまつわるストーリーも伝えたい。そんな想いを経営指導員さんに伝えていたら、補助金の存在を教えてもらいました。そこから、補助金申請の仕方を教えていただいたり、支援していただきました。
また、他の分野でも経営していく中で分からないことなどを相談させていただいています。
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オンリーワンの商品作り
割れなくて縁起が良いためウェディング関係の注文はとくに多く、ウェディングケーキ台やウェルカムボードなど、お客さまの想いの詰まったオーダーが目立ちますね。出産祝いで赤ちゃんにプレゼントできる輪切りのパズルや積み木も作っています。
今はまだ、受注生産が大半ですが、ユニークなオーダーが多く、用途をお客さまに教えてもらっている感じです。
細やかな心遣いで、信頼される存在に
オープンしたばかりで実績がないので、お客さまの信頼を得るため、こまめに連絡を入れています。原木の写真や製造過程の写真を送って、お客さまの希望にきちんと添えられているかを確認したり…。
とくにウェディングでは、人生の大切な日を任せていただくことになるので、責任重大です。お客さまが不安を感じることがないようにできればと思っています。
自然環境を考えるきっかけに
実は今、山には森林資源が溢れていて、木材の新たな活用法が求められています。森林環境を整えることは大事ですが、間伐材や剪定材の処理には費用がかかり、現場を圧迫しているのが現状です。「きりかぶ工房」では、調査・研究で知り合った林業・植木業関係者の方から、こういった木材を提供していただいています。もちろん仕入れ面でも助かりますが、環境の循環に少しでもメリットがあればと思っています。 また、商品を通じて消費者の皆さまにも、林業の現場や人と木の共存についてなど、いろんな情報を発信していくつもりです。