ブレンド米の概念を覆す、驚きの発想力! 農家にしか作れないブレンド米・かっぱまる

堺水田経営
福岡県久留米市田主丸町竹野2061-1
■代表者: 堺 浩一
■創業: 平成24年7月1日
■計画承認日: 令和2年3月31日
 
■TEL: 0943-72-3595

10品種を育てるこだわりの米づくり

農家が生産する米は通常2〜3品種ほど。しかし、堺水田経営の堺さんは約10品種もの米を育てている。それは、品種による米の違いを知って欲しいから。いや、知って欲しいというよりも、堺さん自身が品種ごとに異なる米の面白さに夢中なのだ。
堺さんは米の生産から販売までを手掛けている。米を収穫した後も、米穀の乾燥・籾摺り・精米・包装と作業は続く。10品種それぞれに、そのすべての工程を踏むのは容易ではない。しかし、ヒノヒカリ・実りつくし・みのう連山21・ヒヨクモチ…、それぞれに異なる米の面白さを伝えたい。その想いだけで、堺さんは多品種の米を作り続けている。

有機肥料で育てる、安心の米

自然豊かな耳納連山の麓で行う米づくり。飼っているヤギの堆肥や米ぬか、籾殻を混ぜて、独自の有機肥料を使用する。できるだけ農薬の使用を減らし、安心・安全な米づくりを心がけている。
イベントの試食販売などに参加しているため、堺水田経営には個人客も多い。「個人を相手にすると、お客さんの顔が見えるようになります」と、堺さん。昨今人気を集める「顔の見える生産者」。どこのだれが作ったという安心感が消費者を惹きつける。そして、それは生産者にも通じるものがある。「お客さんの顔が見えるから、いい加減なものは作れない」。堺さんの米づくりを支えるのは、人と人とのつながりなのかもしれない。




経営革新計画の内容は?

Q. 新商品の概要と、その新規性を教えてください。
「田主丸産オリジナル米・かっぱまるの生産と販売」です。もち米のようにモチモチした「ぴかまる」と、しっかり粒感のある「にこまる」。この2つの品種をブレンドして、オリジナルの「かっぱまる」として生産・販売を始めました。
通常、お米をブレンドするのは米屋さんです。農家が米を卸している農協や卸業者は、ブレンド米を買い取ってくれません。ですから、農家が米をブレンドするのは非常に珍しいと思います。
こうしたオリジナルのブレンド米を生産・販売できるのは、独自の販売ルートを持っているからだと思います。とくにスーパーなどでは、通常の品種よりオリジナル米や誰も知らない品種が喜ばれています。

Q. 始めようと思ったきっかけは?
「ぴかまる」はモチモチとして美味しいけれど、「粘り気がありすぎる」という声もいただいていました。そこで「ぴかまる」と、その正反対の特長をもつ「にこまる」をブレンドして、さらに美味しいお米を目指しました。 一番美味しいと思える割合を模索したり、ブレンドする方法をいくつも試したり…。開発までは試行錯誤の連続でしたが、とても美味しいブレンド米ができました。
イベントで「かっぱまる」の試食を配ったことがありますが、最初、子どもはご飯を受け取ってくれないんですよ。周りにはたこ焼きやポテトがありますから。でも、親に勧められて食べた子どもがおかわりをしてくれたり、ご両親が「うちの子がこんなにご飯を食べるなんて!」と驚かれたり…。そういうのが嬉しくて、何よりの励みになります。

経営革新から続くステップアップ

設備の導入について
5kgの真空包装機械を導入しました。1kgの真空包装機械はすでに導入していて、都心のイベントでは1kgの真空パックが売れていました。でも、田主丸のイベントやスーパーでは「1kgでは少なすぎる」と言われることが多かったので。今回の機械を導入したことにより、5kgの真空パックを2個・3個と買ってくれる方も増えました。真空なので日持ちしますし、1kgパックに比べると販売価格も安く抑えることができます。

進む二極化に備えて
米を食べる人が少なくなったと言われます。その反面、米にこだわりをもつ消費者が増えているのも事実です。うちではそういった米にこだわる層に向けた商品づくりをしていきたい。真空包装機械を導入したのも、精米したての美味しさを届けたいからです。紙袋だと食味が1ヶ月ほどで落ちてしまいますが、真空パックなら半年から1年は落ちません。
また、今後は玄米の販売も考えています。美味しいお米にこだわる人の中には、自分で精米したいと考える人もいるはずです。また、健康面から白米より玄米を好む人もいるでしょう。白米に玄米、それに七分づきや八分づきなど、お客さんの細かい要望にまで応えられるようになりたいですね。

Q. 将来の展望は?
これはまだまだ夢の段階ですが、いつかは田主丸を代表する銘柄にしたいと思っています。うちが経営しているコインランドリーでは「かっぱまる」を販売していますが、それを見た近隣の農家さんが「知らない米を売っている」と興味をもってくれることがあります。今はまだ「作ってみないですか?」と冗談めかして声をかけることしかできませんが、本心では、本当に田主丸の農家さんたちに「かっぱまる」を作ってもらいたいと思っています。売れるという実績を作って、もっと本格的に声をかけたいですね。販売ルートを開拓できれば、うちで買い取っても良いですし。そうして地元の農家さんと一緒に地元を盛り上げて、「かっぱまる」を田主丸を代表する銘柄にできればと思っています。

オリジナル米・かっぱ丸ができるまで

衝撃の美味しさ「ぴかまる」との出会い
知り合いの農家さんにおもしろいお米があると教えてもらった「ぴかまる」に興味をもって種を取り寄せて、自分で栽培してみたのが始まりです。そのモチモチッとした美味しさは、僕にとっては衝撃でした。ただ、あまりにモチモチしていたので、「粘り気がありすぎる」という声もありました。
そこで低アミロースでモチモチとした「ぴかまる」と、「ぴかまる」よりアミロースの高い粒のしっかりした「にこまる」をブレンドしようと思ったのです。

試行錯誤の連続
最初はそれぞれに栽培して、出来上がった米をブレンドしていました。どの割合が一番美味しいのか。そこからが試行錯誤の連続でしたね。しかも、出来上がった米をブレンドするには思った以上に手間がかかって。そこで次に、田植えの段階で苗を一条ずつ交互に植えることを考えました。田植え機に苗を交互にセットして植えていこうと。しかし、これも大変な作業でした。そこで最後に行き着いたのが、種の段階でブレンドする方法です。これは種を混ぜ合わせるだけなので、作業が格段に楽になりました。
しかも、この栽培法には病気や災害に強いというメリットもありました。背の低い「ぴかまる」と背の高い「にこまる」が互いに支え合うため風害に強かったのです。さらに、「にこまる」は病害虫に弱いのですが、病害虫に強い「ぴかまる」と一緒に栽培したことで、なぜか害虫にも強くなりました。 この栽培方法をFBで発信したところ、「ぴかまる」と「にこまる」の開発者の方からメッセージをいただきました。両方の品質の良さを生かした栽培法だと。「シェアしていいですか?」と言っていただいたので、是非にとお願いしました。

生産者も消費者も…お互いの顔が見える関係

堺水田経営では、オリジナルブレンドの「かっぱまる」だけでなく、「シルクガール」や「恋のほとめき」といったオリジナル米も生産・販売している。特長ある米づくりを心がけてきたため、JAや卸しだけでなく、個人の客から直接注文をもらうことも多い。そんな個人客の中には直接電話をくれる方もいる。先日は電話で開口一番、「この米はなんね!?」と言われてクレームを覚悟したところ、「美味しくて箸が止まらん」と言われたそう。イベント出展時に「いつもの米とまったくちがう!」と言われたこともある。「作り手にとって、そういうのが一番嬉しいですね」と、堺さん。そうやって消費者の顔が見えると、作り手として気が引き締まる想いがするのだとか。
私たち日本人にとって、お米は当たり前に食卓に並ぶもの。お米を選ぶという感覚は、あまりない。堺さんは、その日本人の当たり前を壊したい。「米は品種によって味や食感が全然ちがいます。お米ってものすごく面白いんです。消費者の方に米の面白さを伝えていくのも、私たち生産者の使命と思っています」。
堺水田経営の「かっぱまる」が食べたいと言われるまで、堺さんのチャレンジは続く。