苗木生産の効率化を実現、販路拡大にも意欲
- 北川農園
- 久留米市田主丸町豊城1382-10
- ■代表者: 北川勝之
- ■補助金採択日: 2023年8月23日
- ■支援内容: 小規模事業者持続化補助金
事業内容
創業は1898(明治31)年と古く、初代・留吉が田主丸の地で櫨(はぜ)、桑の苗木生産を始めたのが起源。その後、1955年に現代表・北川勝之さんの曽祖父が果樹の苗木生産へ移行し、柑橘苗木生産で全国シェア8割を占める田主丸町において有数の生産者に成長する。2016年に勝之さんが代表を継ぎ5代目に就任した。
About us 会社概要
明治創業、田主丸を代表する苗木生産者
地肥沃で水はけのよいといわれる筑後川沿いのこの地で北川農園は代々、苗木を生産してきました。北川農園で生産する苗木の9割が温州みかん・デコポン・せとか・ゆず・レモンなどの柑橘類で、その品種は50~60にのぼります。出荷先は果樹栽培が盛んな徳島県、愛媛県、静岡県などのJA(農業協同組合)が中心で、そこから各地の果樹農家に販売されています。
種子から育てることが難しい柑橘系の果物は、ミカン科の落葉低木である「カラタチ」に各品種の枝を「接ぎ木」して栽培されています。2年ほど育成したカラタチの幹を地表から10cmほどの高さで切り落として「台木」にし、その切り口に栽培する品種の枝(穂木=ほぎ)を接合して専用のテープやバンドなどで固定したものが柑橘苗木です。接ぎ木して2年間育てたものが出荷の中心となっています。
育苗の過程では、木の主幹から出てくる不必要な芽を取り除く「芽かぎ」という作業があり、大きさや形などに配慮しながら行っていきます。北川さんはこの技術に優れ、福岡県主催の品評会で毎年のように受賞しています。
ただ近年は、大雨・酷暑といった異常気象による生育不良に悩まされ、肥料・農薬の値上げや人件費の上昇などもあって、経営を取り巻く環境は厳しくなっています。
業務効率化と販路拡大へ
高い品質を保ちながら安定的な苗木生産を継続するため、北川さんが目指したのが生産性向上と販路拡大の〝両面作戦〟です。
苗木生産の工程において手間暇がかかるのが、台木に接合するための穂木を適切な大きさ・形にするため1本ずつ専用ナイフで削っていく作業。品種によっては枝が太くて硬いものもあり、ナイフで削るのが難しい場合もあります。そこで均一に枝をカットする穂木削り機械を導入して作業の効率化をはかりました。
販路についてはSNSなどインターネットの活用が進み、JAだけでなく果樹農家や一般ユーザーなどからの直接受注が増えていくことも予想されます。そこでこれまでなかったホームページを作成し、苗木を探す人たちに向けた情報提供を強化することにしました。
Sustainability 小規模事業者持続化補助金
・田主丸町商工会への相談のきっかけ
新型コロナウイルスの感染拡大期に各種補助金について調べていたところ、田主丸町商工会でも補助金申請の支援を行っていることを知り相談しました。
・支援内容と成果
補助金申請に必要な経営計画書・補助事業計画書を指導員の助言を受けながら作成し、小規模事業者持続化補助金を申請しました。書類作成は不慣れであったことから、「指導員さんには書類づくりで大変お世話になりました。一人ではとてもできなかったと思います」。
・補助事業計画書に基づいた取り組み
補助金を活用して穂木削り機械を購入し、ホームページを新規制作しました。また、幹線道路沿いにありながら事務所の場所が分かりづらかったことから「北川農園」の文字が入った看板を制作・設置し、来訪者の視認性向上および一般顧客への認知向上を図りました。
Future その後の展開と未来への展望
生産効率アップで増産・品種追加も視野に
穂木づくりに機械が使えるようになったことで、手作業のころと比べて生産性が大きくアップしました。また、ナイフで削っていた時には適切な大きさ・形にならず廃棄していた穂木が一定数出ていましたが、そうしたロスもなくなりました。作業効率が上がったことから苗木の増産や品種の追加も視野に入れています。
新設したホームページには北川農園の歴史から苗木生産の工程、取り扱っている果樹苗木の一覧などを画像、動画を交えながら紹介。ホームページの立ち上げにあわせてSNSによる情報発信も始めました。北川さんは「まだ十分に投稿できていませんので、今後は増やしていきたいと思っています。どのような情報を発信していけばよいのかも含めて勉強中です」と苦笑しますが、SNSを見た人からの問い合わせも入ってきており成果も出始めています。
直取引の増加に備え情報発信を強化
補助金を活用して生産性向上を実現し、新規顧客開拓を進めている北川さんですが、「先行きは楽観視できません」と語ります。全国屈指の柑橘系苗木の生産地である田主丸でも後継者不足などによる廃業が相次いでおり、最盛期には100件ほどあった苗木生産者も半減しています。
田主丸には「福岡苗木研究会」という苗木生産者たちの組織があり、情報交換や育苗技術の研究に取り組んできました。穂木を台木につなぎ合わせる「接ぎ木テープ」や特殊な苗木掘り機を開発するなど、生産性向上にも大きく貢献しています。その研究会の会員も北川さんが入会した当時の50名から半分以下に減少しています。
苗木生産者が減少すると、困るのは苗木を仕入れる果樹農園です。取引していた苗木生産者が廃業すると果樹農家は新たな仕入先を探すことになりますが、ここでもホームページの存在が欠かせません。
個人客も増えています。外出が制限されたコロナ禍ではガーデニング・家庭菜園がちょっとしたブームになりましたが、その影響もあってか庭植え用の果樹苗木の需要も増えています。苗木生産地として知られる田主丸を直接訪れる人もいるため、事務所入口に目立つ看板を設置することで、一般客の取り込みにもつなげていきたい考えです。
「苗木作業がストップする雨の日にできような、新たな取り組みも考えてきたい」と北川さん。伝統ある苗木生産と新規事業の両立を見据えています。